バイオスティミュラントとその役割
近年、新しい農業としてバイオスティミュラントが注目されています。
今回は、そのバイオスティミュラントとその役割について解説します。
1.バイオスティミュラント誕生の歴史
旧ソ連のオデッサ大学教授で眼科医のV. P. フィラトフ博士(1875 〜 1956)は角膜の移植に際し、その組織を冷暗所に保存後に移植すると、その効果が良好であったとし、この効果を植物のアロエや動物の胎盤にも拡大し、この考えを“バイオスティミュラント “として1944年に発表しました。(※1)
2.バイオスティミュラント注目のきっかけ
近年、SDGs (Sustainable Development Goals)が社会全般に注目されてくると、それに対応して、環境負荷の大きな分野でその負荷を少なくするという考えが拡大し、化学農薬・肥料の使用規制などを背景に、欧州を中心に市場が広がってきました。
農薬でもなく、肥料でもなく、土壌改良剤でもない、新しいカテゴリーの資材によって植物が持つ抵抗力(自然免疫)を強化し、農薬の使用量を削減することで、強くて環境に優しい農業を作るというものです。
このような流れを受けて、ヨーロッパでは、The European Biostimulants Industry Council、アメリカではEnvironmental Protection Agency、日本では日本バイオスティミュラント協議会(2018)が設立されています。(ヨーロッパと日本では民間企業が主体、アメリカでは行政が主体となった組織)
3.バイオスティミュラントの働き
農作物はその種類や品質ごとに最終的な収量は決まっているので、収穫量の減少を抑えるために、農薬や肥料を適時に使用します。しかし、高・低温や乾燥・塩害といった非生物的障害の発生に対してそれらを補助するには、植物が自然に持つ生物的な緩和力(免疫力)を最大限発揮させることが必要です。
日本でも古くからこういった資材が使われていました。
農家が自分でつくるボカシ肥料や、腐植質、有機酸、海藻類、アミノ酸、ミネラルやビタミン、微生物などの資材です。
例えば、農薬・肥料が植物の病気に対する直接的な治療剤であるとするなら、ボカシ肥料などは植物の免疫力を助けて非生物的にストレスを緩和する漢方薬みたいなものと言えます。
4.植物免疫機構と植物ホルモン
近年、仲下の報告から「植物免疫機構」における植物ホルモンの機能とその制御が注目されています。
植物は病原菌の感染にたいして様々な遺伝子発現を伴う局所的な抵抗反応を示します。これは過敏性反応と呼ばれ、活性酸素の生成や細胞死(アポトシス)を伴い、病原体の感染・増殖を抑え込みます。これらの応答は抵抗性遺伝子に支配されています。
こうした局所的に起きる抵抗性の誘導反応は植物免疫システムと呼ばれ、これらの反応には植物ホルモン(サリチル酸、アブシジン酸、ジャスモン酸等の低分子物質)が関わり、植物の生物・非生物ストレスに対して自己(植物)を守る免疫システムであります。(※2)
5.アルム農材の働き
植物を元気にする基本資材の「アルムグリーン」は、12種類の漢方生薬の発酵液でアミノ酸、ミネラルと共に、乳酸菌や野生酵母菌などを含みます。
「アルムグリーン」は酵母のPichia membranifacience の発酵により、短鎖有機酸の酢酸(IAA様)・プロピオン酸を産生します。そして、この菌と同属のP. spartinae は植物成長ホルモンのインドール酢酸を産生します。(詳しくは、アルム資材開発の経緯を参照して下さい)
これらの研究結果から「アルムグリーン」は栽培植物の生育を促進することが証明され、「植物成長調整剤」として農水省農薬登録を取得しています。(※3,4)
6.結び
植物を守り環境を守るアルム農材は、すべての製品が漢方薬を始めとした植物性天然物と微生物を含む発酵資材で構成され、有機JAS別表適合を取得しています。「アルムグリーン」は植物の持つ力を最大限引き出し且つ環境を害さない、日本で唯一の公的に認められたバイオスティミュラントであると言えるでしょう。(※3,4)
そして今、農業分野でのSDGsの一つとして注目されています。
文献(※がついた箇所の詳細)
- A Yagi, S Ataka. Putative prophylactic updated of placenta extract and aloe vera as biogenic stimulant Journal of GHR 2014; 3(12): 1367-1387 生物刺激剤としての人胎盤抽出物とアロエベラの推定可能な最近の予防効果
- 仲下英雄 理化学研究所中央研究所 植物免疫機構における植物ホルモンの機能とその制御に関する研究 植物の生長調節2005; 40 (1):10-15
- バイオステイミュラントJackson et al., Entry of organic acid anions into roots PNAS 1970; 65(1): 176-183
- Jackson, et al., Changes in membrane lipids of roots associated with changes in permeability: Effects of undissociated organic acids Plant Physiology 1980; 66(5): 801-804
薬学博士:福山大学名誉教授
日本薬学会理事・日本生薬学会評議員
国際アロエ科学協議会(IASC)・日本生薬学会名誉会員
一般社団法人日本アロエ科学協会特別顧問。薬学博士。福山大学名誉教授。専門分野は生薬学。消化器内科・肝臓学研究(英文誌)の編集長。海外の研究者・医療機関との交流も深く、特にアロエについては40年以上にわたる研究実績があり、日本のアロエベラ研究の第一人者として活躍。現在、少子・高齢化社会のQOLに役立てる天然物を目標に、アロエベラや漢方薬由来の農材の研究を行っている。